外国人を雇用する日本企業が気をつけるべきポイント第5回:外国人雇用における法的リスクとコンプライアンス
外国人を雇用する企業には、法的なリスクや責任が伴います。違法就労を防ぐためのチェック体制や、公平な労働環境を維持するためのコンプライアンスは、企業として不可欠な取り組みです。本記事では、外国人雇用における主な法的リスクと、それを回避するためのコンプライアンス対応について解説します。
1. 不法就労防止とビザ管理
不法就労のリスクと企業の責任
外国人を雇用する際の最大のリスクは、不法就労を発生させてしまうことです。不法就労が発覚すると、従業員だけでなく企業側にも罰則が科される可能性があり、場合によっては罰金や業務停止処分を受けることがあります。
- 不法就労助長罪:雇用者が在留資格を確認せず、または知りながら違法に外国人を就労させた場合、不法就労助長罪に問われる可能性があります。この罪に問われると、最大で3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されることがあります。
- 企業イメージへの悪影響:不法就労が明るみに出ると、企業の信頼やイメージに深刻なダメージを与える可能性があり、長期的な影響が懸念されます。
在留資格の確認方法
企業が外国人労働者を雇用する際には、在留資格とその活動内容が合致しているかを確認する義務があります。
- 在留カードの確認:外国人労働者の在留カードを確認し、在留期限や就労可能な範囲をチェックします。特に、在留資格の種類により就労可能な業務範囲が限定される場合があるため、カードの内容をよく確認しましょう。
- 資格外活動の禁止:一部の在留資格では、許可なく本来の業務内容以外の仕事に従事することが禁止されています。例えば、留学生がアルバイトをする場合も、資格外活動許可が必要です。
2. 労働条件と契約に関する法的義務
労働条件通知書の交付
外国人労働者にも労働基準法が適用されるため、日本人労働者と同様に「労働条件通知書」を交付する必要があります。雇用条件が明確でなければトラブルの原因となるため、契約時に必要な情報をきちんと提示しましょう。
- 通知書に明記すべき内容:労働時間、給与、勤務場所、業務内容、休暇などを具体的に記載します。また、契約期間や更新の有無も明確に示す必要があります。
- 外国人労働者向けの言語対応:日本語が苦手な場合は、通知書の内容を母国語や英語で説明する配慮が求められます。理解不足が原因で後々のトラブルを避けるため、内容をしっかりと説明しましょう。
労働時間と残業規制の遵守
労働基準法では、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働に対する残業手当の支払いが義務付けられています。外国人労働者にも同様の規定が適用されるため、長時間労働の管理が重要です。
- 残業手当の支払い:外国人労働者であっても、残業が発生した場合には割増賃金を支払わなければなりません。
- 法定休暇の確保:日本では年間最低10日の有給休暇が定められており、外国人労働者にも同様に適用されます。特に日本の有給制度に不慣れな外国人には、制度の説明も行うと良いでしょう。
3. 差別禁止とハラスメント対策
差別禁止
日本の労働法では、国籍や人種、宗教に基づく差別は禁止されています。外国人労働者に対する公平な待遇が求められ、企業は差別のない労働環境を提供する義務があります。
- 平等な評価と昇進の機会:外国人労働者に対して、日本人と同様の評価基準と昇進機会を提供することが求められます。スキルや経験に基づき、公平に評価するための基準を設けましょう。
- 差別のない採用プロセス:採用時に国籍や宗教を理由に不公平な取り扱いをしないよう、採用基準を明確にし、公平な評価が行われるよう努めます。
ハラスメント防止策
外国人労働者に対するハラスメント(セクハラ、パワハラ、モラハラ)を防止するため、企業は明確な方針と対策を持つ必要があります。ハラスメントは労働環境を悪化させるだけでなく、企業の法的責任を問われることにもなりかねません。
- ハラスメント防止ポリシーの明示:外国人労働者にも理解できる形で、ハラスメント防止の方針を示し、周知します。
- 相談窓口の設置:外国人従業員がハラスメントに遭遇した場合、安心して相談できる窓口を設けると、早期解決に繋がります。また、外部の相談機関や弁護士と連携するのも効果的です。
4. 職場の安全と衛生管理
安全衛生管理の徹底
日本の労働安全衛生法は、外国人労働者にも適用されます。職場の安全を確保するため、企業は必要な対策を行い、外国人労働者にも理解してもらうことが大切です。
- 安全教育の実施:危険な作業に従事する場合には、安全教育を実施し、安全手順や装備についてしっかりと説明します。言語の壁がある場合には、簡単な日本語や多言語での資料を活用しましょう。
- 定期的な衛生管理の確認:職場の衛生管理を定期的に行い、外国人労働者にも清潔で安全な労働環境を提供します。
災害時対応の周知
日本は地震や台風などの災害が多い国です。外国人労働者が災害時にパニックに陥らないよう、企業は事前に対応方法を周知しておく必要があります。
- 防災訓練の実施:外国人労働者を含めた防災訓練を定期的に実施し、災害時の避難経路や初動対応を教育します。
- 多言語での災害マニュアル:日本語が難しい従業員に対しては、英語や母国語での災害対応マニュアルを提供すると安心です。
5. 企業のコンプライアンス体制と教育
外国人労働者向けのコンプライアンス教育
外国人労働者も企業の一員としてコンプライアンスの意識を持つことが求められます。企業は、外国人労働者が理解できる形で、職場のルールや倫理基準について教育を行うと良いでしょう。
- コンプライアンスガイドの配布:会社のルールや方針について、外国人にも理解できるようなコンプライア
ンスガイドを配布し、内容を説明します。
- 定期的なコンプライアンス研修:日本で働く上で必要な法規制や職場ルールについて、外国人労働者を対象とした研修を定期的に実施することが推奨されます。
法改正への対応
外国人労働者に関連する法規制は、状況に応じて変更されることがあります。最新の法改正情報を確認し、必要に応じて対応策を講じましょう。
- 法改正のアップデート:法務省や厚生労働省のホームページなどから、最新の法改正情報を確認し、外国人労働者に適用されるルールが変更された場合は、速やかに対応を行います。
- 専門家との連携:入管手続きや労務管理に精通した専門家と連携することで、最新の法規制に迅速に対応し、コンプライアンスを確保することが可能になります。
まとめ
外国人雇用における法的リスクとコンプライアンスをしっかりと把握し、適切な管理と支援体制を整えることで、安心して外国人労働者を受け入れ、長期的な信頼関係を築くことが可能になります。次回は、外国人雇用の成功事例と失敗事例を通して、学べるポイントを詳しく解説します。